欧州特許庁発足後の数年間の欧州特許制度および欧州特許庁のさらなる発展について続ける前に、本章では欧州特許条約 (EPC) における特許付与手続の概要、すなわち、欧州特許庁発足当時の状況および後の発展について述べる。

欧州特許付与手続全体の基礎となっているのは欧州特許条約である。この条約は、主に欧州各国内における特許法と実務を調和するものであり、非常に重要かつ現在も継続している特許付与手続の第一歩を定めている。同時に、この条約は、国際的レベルの調和の発展を間接的にもたらしている。

欧州特許制度は、各国特許の一元付与により、特許出願、先行技術調査および審査手続に関する一連の規則を提供する。この点において、1978年以前の状態と比較すると、欧州特許制度は管理面と同様に財政面における合理化についても大きな前進をした。さらに、2019年現在構想されている欧州単一特許は、確実に上記の管理面と財政面に影響を与えることが予想される。

この欧州特許制度は欧州における特許保護の従来の方法、すなわち各国特許庁への特許出願の代替案を示している。すなわち、1つの欧州出願をすることで、欧州特許条約の全加盟国において特許保護を受けることができる。そして、欧州特許庁に付与された特許は、指定締約国内においてもその国が付与した国内特許と同じ効力を享受することができる。

指定国内での特許保護を確保するために、特許出願人は加盟国の特許機関に対して例えば翻訳の提出や公開費用の支払いなどのいくつかの段階を踏む必要がある。 これらの必要条件は加盟国の各国の法律に従う。有効な特許保護を維持するために、出願日から計算して付与後3年目からそれ以降毎年、年金を支払う必要がある。

この付与手続において、欧州特許庁は一元的な特許付与機関であるが、特許付与後の全ての段階において、特に権利侵害の問題は各国機関にとどまったままであり、各加盟国内で個別に処理されなければならない。欧州付与手続は、統一した中央審査および付与手続が、必要な国内手続を経て出願人に指定された締約国で有効な国内特許の束へとつながるような成果をもたらした。

欧州特許出願は、欧州特許庁の公用語である英語、フランス語、ドイツ語のいずれかの言語で出願される。欧州特許庁発足当初は、出願人が明確に指定した締約国のみが権利保護のための指定国となったが、欧州特許条約の改正条約(EPC2000)が2007年12月13日に発効した後は、出願時に全締約国が指定されているものと法的に見なされるようになった。2019年現在は、欧州加盟国38か国が欧州特許条約に加盟している。また、2019年現在、拡張国(現在、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの2か国)と認証国(現在、モロッコ、モルドバ、チュニジア、カンボジアの非欧州国4か国)にさらに保護の権利を拡張することができ、出願人の請求及び所定の手数料の納付に基づいて欧州特許出願による保護がなされる。

締約国の居住者は、専門家に依頼することなく自身で出願が可能だが、締約国以外の居住者は、欧州特許庁の公式な代理人名簿から代理人を指名しなければならない。

欧州特許出願は、ミュンヘン、ハーグ、ベルリン、あるいは締約国が許可すれば、締約国の国内特許庁や他の機関に直接出願することができる。出願は書面で、電子的手段、持参、郵送またはFAXで手続しなければならない。特許付与における手続費用である出願料、先行技術調査手数料、超過クレームに対する手数料、各指定締約国に対する指定手数料、延長手数料、各締約国での権利の有効化費用(validation)、審査手数料、特許付与手数料および公告手数料、そして3年目とそれ以降の年金を異なる段階で支払う必要がある。なお、手続費用は、現在はユーロで支払われるが、以前は各加盟国の通貨での支払いも可能だった。

最初の段階では、出願の特許性および公開に関する方式審査、サーチレポートの準備、予備的見解が必要である。欧州特許庁は通常、出願後6か月以内にサーチレポートを提供することを目指している。出願は通常、出願日または最も早い優先日から18か月の期間満了後直ちに公開される。次の段階では、通常実体審査の後に特許付与が行われる。この手続きを開始するために、サーチレポートが欧州特許公報で告示されてから、どんなに遅くても6か月以内に出願人は審査請求をする必要がある。査定前は、技術的に資格のある審査官1名が審査を担当する。査定は、技術的に資格のある3名の審査官で構成される審査部門の合議体により行われる。

特許付与後、特許付与の告示から9か月以内に、特許権者自身を除いていかなる第三者も異議申立をすることができる。これらの手続は異議部に委ねられており、異議部を構成する3名のうち2名は先の審査手続に関与している必要は必ずしもない。

特許権の付与前後における欧州特許庁からの大抵の決定に対しては、権利の維持のため、タイムリーに法定費用を支払う必要がある。なお、欧州特許庁からの決定の状態に応じた猶予期間も適用可能である。

特許付与後に特許権者は取消または限定を行ってもよい。これは異議申立の手続中以外であれば、付与後いつでも申請できる。取消または限定に関する決定は審査部が下す。

欧州特許庁の受理課、審査部、異議部または法律部が下した決定に対しては、決定日から2か月以内に控訴を申し立てることができる。控訴に関する決定は審判部が責任を負い、審判部は第二審および最終審判の決定を下す。審判部は通常、2名の技術系と1名の法律系のメンバーから成り、いかなる指示も受けない。彼らが順守しなければならないのは欧州特許条約だけである。例外的な場合において、拡大審判部による再審理の請求が可能である。これは審判部の通知から2か月以内に行われなければならない。

目次

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