調査機関としての国際特許協会(IIB)との統合により、欧州特許庁は早い時期から特許文献と非特許文献の膨大なデータにアクセスすることができた。収集は順調に進み、1978年には1400万件だった文献数は1988年末には2100万件を超える数に到達した。
1977年の欧州特許庁運用開始から最初の5年間は、欧州特許庁は特許付与機関としての機能を確保することに集中した。収集データは主に内部向けのツールとして活用し、外部からの利用はある程度の大企業のみに限定した。現在、一般向けに公開している特許文献の情報ツールとしての利用は、1980年代当初はまだ行われていなかった。
しかし、特許情報のサービス事業者になりうる欧州特許庁の積極的な関与について、検討を深める時期が来ていた。
1982年、特許文献の印刷コストの上昇に伴い、公報文献のデジタル化 が検討された。この時、印刷データの約3分の2は他の特許庁との交換用、3分の1は一般向けの販売用データであった。このような状況のもと、印刷データのデジタル化はコストを削減し、また特許情報データへの幅広いアクセスのためのツール開発の第一歩となった。またこれを機に、今後は電子形式での特許出願が可能になるだろうと分析された。
1982年にはまた、欧州特許庁の監督機関である管理理事会において作業部会が設立され、欧州特許庁の電子化された文献情報についての今後の普及に関するシナリオが作成された。その後の数年間で、各国特許庁と欧州特許庁との間で情報の普及に関する役割分担が明確に定められ、 特許文献からの技術情報の普及は各国特許庁の責任下にあると合意された。作業部会は欧州特許庁の内部情報システム、特に特許ファミリーシステムへの一般からのアクセスを許可するべきか、またどのように権限を与えるべきかを検討した。これらの進展により、1982年に欧州特許庁と米国特許商標庁(USPTO)との間において、ノウハウの共有を強化し、不必要な重複作業を回避することにより業務効率を高めることを目的に、新しい記録媒体のデータ交換を強化することに合意した。
1983年、管理理事会の作業部会の努力の結果、欧州特許庁の情報普及政策のより広い解釈への道を開いた。その判断により、欧州特許庁の3つの内部情報システム“ファミリー(FAMI)、インベントリー(INVE)、分類(ECLA)システム”に、一般からのオンラインによるアクセスが可能となった。これらシステムの各国ホストへの分配(国内ホストの決定については各国特許庁の責任であった)は、その後INPADOC(ウィーンにある国際特許情報センター)に委ねられることになる(INPADOC及びINPADOCと欧州特許庁との関係については後の章に記載)。その後、同年にINPADOCと欧州特許庁間との関係についての協定案、いわゆるヨーロッパ協定も採択され、1984年4月1日に発効された。この直後、INPADOCはフランス特許庁(INPI)と、フランスの企業Télésystèmes に公開データのホストとしてこれらを提供する契約を締結した。さらに二庁間協定に基づき、各国特許庁は欧州特許庁のコンピューターシステムに初めて直接にアクセスし、これらの欧州特許庁内のデータベースを利用できるようになった。
特許情報普及の問題に影響を及ぼすもう一つの要因は、EPO、USPTO、JPOの三極特許庁協力の枠組みにおける議論だった。この協力は1983年に始まり、特許情報普及政策の協調についての課題は、初期段階に既に主な議題の中に含まれていた。1984年には参加特許庁のみならず、情報公開のために各国特許資料館にも交換データが利用できるように合意された。これに関連して1985年には、コンパクトディスク(ROM)の活用は、低価格の利点も備えた情報普及に有望なツールと見なされた。
欧州特許庁は、デジタル化の増加と三極特許庁協力における議論を背景に、変化する情報環境での経験に基づいて、1986年5月に「電子時代における特許情報」をトピックとしたシンポジウムを開催した。このシンポジウムでは特許情報に対する高まる要求が確認されただけでなく、公共に提供される特許情報は、専門家によって事前に改善・評価される必要があることが明らかになった。この時点では主に各国特許庁、公共資料館、及び市場情報提供者のための幅広い活動領域として解釈された。
欧州特許庁内部および三極特許庁間においても、今後の特許情報普及政策の継続的な国際レベルでの議論により、最終的には欧州特許庁が情報普及においてより積極的な役割を果たすだろうという結論に至った。欧州特許庁は、今後のさらなる活動の基礎となる欧州特許情報政策を実施する決定を下した。この背景を踏まえて、欧州特許庁はINPADOCとの統合に向けた検討も深めていった。
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