特許パッケージの正式な承認と、統一特許裁判所の合意に先立つ21世紀最初の10年間、従来の欧州特許のほかに欧州における特許付与手続きに新たな道を開くために必要な政治的・技術的な前提条件が繰り返し議論され、EU内のさまざまな機会で条件が推敲された。2011年には、EUの競争力理事会の枠組みにおいて、年末までに「特許パッケージ」に関する政治的合意に達することが期待されるほど、有望な進展があった。

同時に、特許パッケージの実施、特に統一特許裁判所の設立に関して、加盟国による明確化と合意を必要とする一連の未解決事項が特定された。2011年12月に開催された欧州連合(EU)の競争力理事会の準備に向け、主に統一特許裁判所の設立に関する合意に関して、閣僚による政治的な検討と決定を必要とする課題のリストが作成された。2011年末の時点でも、第一審裁判所の中央部の所在地、登録簿のある控訴裁判所、特許調停仲裁センターの所在地の決定に係る問題が残っていた。中央部の所在地については、ドイツはミュンヘン、フランスはパリ、英国はロンドンを提案した。控訴裁判所については、ルクセンブルグが設置場所を提案した。また、アイルランドとスロベニアが調停仲裁センターの設置に関心を示していた。

第一審裁判所または控訴裁判所の地方部、地域部、中央部を主催する加盟国の財政拠出、ならびに設立段階と、裁判所がまだ独立採算制をとらない期間における加盟国の一般的な財政拠出について合意する必要があった。このような財政的な問題に関する合意を形成するため、議長国から2つの選択肢が提案された。一つは、全加盟国からの均等な拠出と、欧州特許の実施件数と当該加盟国で争われた欧州特許の件数に基づき定めた拠出額を組み合わせるというものであった。  もう一つの提案は、単一効果を有する欧州特許からの更新料収入の分配の規模に基づいて分担金を定めるというものであった。最終的には、最初の経過措置期間である7年間は第一提案の規則が適用され、その後は第二提案の規則が適用されることになった。

この時点でさらに未解決だった課題は、法廷での手続きの言語の問題であった。UPC協定の発効に必要な批准国数もまだ議論中であった。当初提案されていた9カ国というのは、当時としては少なすぎるように思われたが、最終的には、13カ国とする妥協案が見出された。同様に、単一効果を持たない「従来の」欧州特許の経過措置期間についても、各国の裁判所に訴訟を提起することができる期間について、様々な意見の妥協点を見出す必要があった。また、統一特許裁判所の機能、効率性、費用対効果、判決の質を向上させるために、管理委員会が見直すことができる規定の改正条件についても合意しなければならなかった。一部の加盟国は、このような決定には全会一致を必要とすべきであると主張したが、他の加盟国は、全会一致のアプローチは必要な見直しを困難にしすぎるのではないかと懸念した。管理委員会の審査決定については、4分の3以上の賛成を維持するという妥協案が提案された。

2011年には、一連の未解決の課題に対して目標に到達するために、全ての参加加盟国があらゆるレベルで努力をする必要があるとの認識が参加加盟国の間で生まれ、プロジェクトの進展の大きな原動力となっていた。2011年12月の会議では、統一特許裁判所の運用開始の準備に関する締約国の宣言が統一特許裁判所に関する将来の協定の附属書案として起草されていた。  この附属書は、加盟国が最善の努力を払い、統一特許裁判所の迅速な設立準備を速やかに開始する意思を確認する必要性について言及している。  この附属書には、協定の発効後、直ちに統一特許裁判所を完全に運用するために必要なすべての措置を遅滞なく実施することについて、将来の署名国相互の同意の草案が含まれていた。これには、加盟国における国内批准手続きを、可能な限り速やかに実施すべきであるという理解も含まれた。このことを念頭に置いて、締約国は協定の発効前に、UPCが適切に機能するための全ての実務的な取り決めを正式に準備する意向も表明した。このアプローチに沿って、UPCの早期設立と運用開始のための実務的な取り決めを準備し、ロードマップを策定する準備委員会を設置することで合意した。この関連で、準備委員会の任務に関するさらなる課題が取り上げられた。その中で特に言及されたのは、UPCの手続規則の準備、最初の会計年度の予算の準備に特に注意を払つつも、特許訴訟の経験の少ない加盟国の将来の裁判官のための研修の必要性であった。そして最後に、将来のホスト国である締約国に対し、協定発効までに必要な施設、家具、事務室、設備の準備や、必要な事務支援スタッフの配置を支援するための仲介役を準備委員会が果たすべきである。

さらに、UPC協定とは直接関係ないものの、特許パッケージの不可欠な要因として統一特許裁判所が後に機能するために政治的・財政的に大きな意味を持つ点、すなわち、単一効果を有する特許の更新料の水準と加盟国間の分配の問題について、意見の明確化が必要であった。

2013年、UPC協定調印のほぼ直後に設置された特別委員会は、参加する26のEU加盟国の代表と、オブザーバーとしての欧州委員会で構成されている。ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)、欧州特許協会、および協力強化に参加しているEU加盟国以外のEPC締約国は、追加でオブザーバーの地位を得ている。

目次

前章 第74章:統一特許裁判所(2)

次章 第76章:統一特許裁判所に関する協定の暫定適用に関する議定書