10章: 欧州特許条約 – 関連議定書
1973年のミュンヘン外交会議において、欧州特許条約は、施行規則、4つの追加の議定書、2つの決定書、1つの決議案、1つの宣言書とともに採択された。詳細について以下に説明する。
欧州特許の付与に関する条約 (欧州特許条約)
この条約は、合計178 条で形成される欧州特許制度の法的根拠であり、欧州特許機構(European Patent Organization)の組織や、欧州特許庁とそれを管理する管理理事会の役割を規定したものである。制度の財務規定や、この制度内の特許付与手続きおよび異議申し立て・審判手続きの基本原則を策定している。世間に対して定期的に情報を提供し (これもまた、欧州特許庁の特許情報活動を後に広く拡大するための第一歩とも言える。)、また欧州特許制度の範囲内において特許協力条約(PCT条約)に準拠した国際特許出願(PCT出願)の規則を定めている。この条約は、国内法に一連の影響を必然的にもたらすので、規則の即時実施に向けて加盟国が留保することができる内容や期間の範囲の程度も規定している。更に、この条約は、全体の制度を実現させるためのさらなる行政段階を策定するものである。
欧州特許の付与に関する条約の施行規則
欧州特許条約の実施のための実際の規則は全体として106の規則により規定されている。ここで、規則は、異議申し立ておよび審判、第一審および第二審の部門の組織構造や実施面に関して、また第二審の加盟国の指定に関して策定されている。さらに、通知書や庁との連絡の言語体制の事務的な部分についても説明している。要するに、庁からのおよび庁に対する通知書がどのように処理されるか詳細に述べられている。
管轄に関する議定書および 欧州特許の付与権に関する決定の承認 (承認に関する議定書)
この議定書は、出願人に対する申し立ておよび欧州特許の付与権に対する申し立てに関する法的基準を詳細に述べ、また締約国の裁判所の責任について規定したものである。そこで規定される基本原則は、紛争一般においては、出願人の居所がある締約国の裁判所か、出願人の居所が締約国外であって、申立人の居所が締約国にある場合には、該締約国の裁判所が、紛争の決定に責任を持つ、というものである。ただし、紛争の当事者双方が特定の締約国の裁判所に合意した場合は、該裁判所が責任を持つ。これは前述の基本原則に優先する。いずれの締約国でなされた判決も、さらなる手続きを要さずに他の全ての締約国においても承認されたものとされる。
欧州特許機構(European Patent Organization)の特権と免責に関する議定書 (特権と免責に関する議定書)
この議定書は、超国家的権力としての欧州特許機構の特権を規定したものである。欧州特許機構に対して公的活動の範囲内で免責を付与し、欧州特許機構の前提と公文書を不可侵のものとして述べている。公的活動の範囲内で、欧州特許機構はその財産と収益が免税される。締約国の代表者は、管理理事会とその団体の会議に参加中において免責を享受する。欧州特許庁の従業員は、庁内の職務の執行において行った活動に関して裁判権の免除を享受する。さらに、移住と外国人登録に関して、彼らには拘束的な手段が適用されず、他の国際機関と同様の特権が付与される。欧州特許機構とその従業員に付与された全ての特権は、単に欧州特許機構の妨げられない機能を保証するものである。
欧州特許制度の集中化に関する議定書およびその導入 (集中化に関する議定書)
この議定書は、ハーグにある IIB (国際特許協会) の EPOへの統合を管理するものである。1947年6月6日のハーグ協定の前締約国の責任とIIBのEPOへの移行を述べている。IIBの前締約国はIIBに対しての権利を放棄してEPOを支持するものとする。そのかわりにEPOへの統合後もこれら国々に対してサービスの継続を付与するものとする。EPOの支持を得て、締約国は特許協力条約(=集中化)に基づき、国際調査機関としての活動の放棄を容認する(適用除外あり)ものとする。ドイツの賛成を受け、欧州特許出願の調査を行うために(西)ベルリンに欧州特許庁の支部を設立することを確定している。加盟国の産業財産権庁に欧州特許出願の審査に関する業務をEPOの公用語の一つで手続きするようにEPO に委託する機会を付与するものとする。さらに、EPOと加盟国間の調査活動の協調に関する主要な協定を策定している。
条約69条の解釈に関する議定書
実務上の観点から、条約69条(特許出願の保護の範囲は基本的にクレームの用語により決定される。) をどの程度まで制限又は広義の解釈をするか、規則を定める必要があるように思われていた。この議定書は、特許権所有者に対する適正な保護と第三者にとって妥当な確実性とに配慮した方法でクレーム、詳細な説明、図面が解釈されるべきであると述べている。
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